2025年6月ミリプロを運営する株式会社Million Productionは、株式会社MIXI、株式会社バンダイナムコエンターテインメント、個人投資家等を引受先とした第三者割当増資により、総額約1.8億円の資金調達を実施したことを発表しました。
VTuber事務所が資金調達を行ってリリースをするのレアケースであり、業界として久々なニュースでした。今回はミリプロがどういった事務所か、VTuber業界の研究員として活動するリサラボくんが解説します。
ミリプロはどんなVTuber事務所なのか【基礎編】

まずはミリプロがどういったVTuber事務所なのか、基礎的なところを確認していきましょう。
▼ミリプロ公式サイト
https://milpr.com/
▼ミリプロ公式X
https://x.com/Mil_Pro_
設立
事務所としての設立は、2023年4月1日。2022年12月に初配信を行った甘狼このみを設立メンバー兼0期生兼クリエイターとして設立されたVTuber事務所がミリプロです。その後、2024年4月に法人化を発表しました。
それまでのVTuber事務所は、事務所立ち上げにともなって、新たにオーディションでタレント採用を行い、VTuberがデビューしていくのが一般的でした。
ですが、ミリプロはVTuber自身が設立メンバーとなって事務所の顔として自身も活動していく形を取ったため、設立当時から大きく注目されました。

コンセプト
「無数の」という意味もある『Million』という言葉には、無数の可能性を秘めたタレントたちが飛躍するサポートをしたいという想いが込められています。
クリエイティブがファンの心を動かし、その想いがまた新たな創造を生む――そんな好循環を生む場を育てるべく、タレント育成を行っています。
株式会社Million Productionは、クリエイティブがファンの心を動かし、その想いがまた新たな創造を生む――そんな好循環を生む場を育てています。
引用:株式会社Million Production 採用ページ
経営体制
立ち上げ前からVTuberとして活動していた甘狼このみさんが立ち上げの中心となり、EC・IT企業でCEOを務めた島井 尚輝さんが現在代表取締役社長を務めています。
島井さんはIT企業のCEO退任後は、エンタメ系YouTubeChの運営を行い、クリエイター向けのコーチング事業を営んでいました。そのためビジネスとエンタメ、YouTubeに精通していると推測されます。
クリエイターとして高い能力を持つ甘狼このみさんと双方の強みを補えるコンビとVTuber数、歌やイラストなどのクリエイティブな「武器」を持った才能あふれるメンバーが所属しているのが特徴です。
人数:9名(記載日である2025年10月に公式HPの所属タレント数に記載があるタレント数)
ミリプロ所属代表的なVTuber・事務所の強み【タレント・事務所編】
では、ミリプロには実際どういったVTuberがいるのでしょうか。代表的な方を紹介しながら、どういったタレントがいるのかを解説していきます。
代表的なVTuber
甘狼このみ
- YouTube登録者数:74.4万人
- Xフォロワー数:9.8万フォロワー
小学館の少女漫画誌『ちゃお』が、読者1000名(6歳から14歳まで)を対象に、好きなVTuberについて調査を実施し、1位はホロライブの兎田ぺこらさん、3位は同じくホロライブの宝鐘マリンさんとなる中、2位にランクインするなど、小中学生から高い人気を有しているのが彼女の特徴である。
2020年6月ごろからイラストレーターとして活動していた背景があり、自身のデザインをイラストするなど、配信が中心のVTuberとしての側面以外にも高い魅力を持っていることが分かります。
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甘狼このみがちゃおっ娘が好きなVTuberランキングで2位に選ばれました!
音ノ乃のの
- YouTube登録者数:57.4万人
- Xフォロワー数:9.2万フォロワー
甘狼このみが手がけた同所属VTuberの第一号であったため、デビュー時から高い注目度を集めました。
2023年4月から活動をはじめ、活動開始から半年後にはチャンネルの累計再生回数が4,000万回なり、デビューから3カ月でYouTubeのチャンネル登録者数が10万人になるなど、好調にファンを増やしていきました。
歌唱力の高さが武器であり、歌を中心としたコンテンツを配信で行っています。
▼【歌枠】いぇあああ
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所属者のYouTubeチャンネル登録者数
事務所全体のチャンネル登録者数は2,848,000人になるなど、所属VTuberの一人当たりのチャンネルが多いことが分かります。
ここから事務所が一定の再現性をもって所属タレントのファンを増やすことができる事務所は少なく、事務所が自社タレントの人気を伸ばすためにやるべきことを明確に持っていることが分かります。
所属者のファン層
ここまで書いてきた通り、ショート動画を中心とするコンテンツによって女子小中学生から高い支持を受けています。
他のVTuber事務所でも小中学生から人気が高いVTuberはもちろんいますが、ミリプロほどその割合が高い事務所は稀有です。そういった点でも、独自なポジションを築いています。
VTuber事務所としての強み
VTuber事務所が多く増えていく中で、ミリプロは独自の強みを有しています。会社HPのオーディションページにある記載をもとに分析していきます。
1.個々の才能を活かせる環境
- 歌・イラスト・動画編集・デザインなど、多彩なクリエイティブ分野で活躍できる
- タレントごとの「武器」を大切にし、個性を最大限に活かせる場がある
2.少数精鋭のデビュー方針
- 一度に大量デビューするのではなく、年間4〜5名ほどを厳選してデビュー
- 一人ひとりを丁寧に育成・サポートし、長く活躍できる環境を提供
3.クリエイターとの強い連携
- タレントだけでなく、スタッフも高いクリエイティブ能力を持つメンバーが集結
- 歌、イラスト、デザイン、動画編集、MIXなど、細部にまでこだわった作品作りが可能
4.個人の力でも輝ける仕組み
- 事務所の力だけに頼らず、個々のタレントが自分の力でファンを増やせる
- SNSやYouTubeを活用し、広がりやすいコンテンツ作りをサポート
5.新しい才能を積極的に発掘・支援
- これからもミリオンの輝きを共に目指せる魅力的なタレントを発掘し、支援していく方針
VTuber事務所という事業視点で見た「ミリプロ」とは【事業戦略編】
ミリプロは、VTuber事務所としてANYCOLOR株式会社が運営する「にじさんじ」やカバー株式会社が運営する「ホロライブ」とは一線を画す独自の戦略を取っています。その違いをuyetが解説します。
1.タレント獲得とマネジメント
コンセプトにあるようにミリプロは、「クリエイティブ」をタレントの共通項として設定しています。
これはバラエティー色が強い「にじさんじ」、アイドル色が強い「ホロライブ」、ゲーム色が強い「ぶいすぽっ!」とは違う事務所としての個性があるポイントになっています。
事務所のタレント採用方針
実際、オーディションページを見ても、事務所の強みとして「歌・イラスト・動画編集・デザインなど、多彩なクリエイティブ分野で活躍できる」という記載があるように、タレントに求める要件としてクリエイティブ分野が重要な評価ポイントになっています。
実際事務所でトップの影響力を誇る甘狼このみさんもイラストが得意で、小学館が発行するちゃおで漫画の掲載をするなど、クリエイティブを軸に活動の幅を広げています。
他の事務所でも、イラストが描ける、歌ができるなど評価されるポイントになります。ですが、ここまで優先度を高くしている点はミリプロならではの戦略と言えます。
所属ライバーのデビュー人数
「年間4〜5名ほどを厳選してデビュー」と強みに記載がある通り、大量デビューではなく、少数精鋭に絞っている点も独自の戦略と言えます。
一般的に、VTuber事務所は所属タレントのなかに人気の高いVTuberがいる場合、その人気をコラボなどでデビューしたてのVTuberに人気を移していくことをします。そうして、デビューしてから人気が出て、収益も一定確保できる状態までのリードタイムを早くすることを狙います。
加えて、VTuberが人気になる要素は、デビューしてからでないと見極めきれない面やその時のトレンドと本人の相性が合うかなど複数あげられます。そのため、一定人数をデビューさせて、勢いよく人気が伸びるタレントが安定的に出るようにするVTuber事務所もあります。
ですが、ミリプロは少数精鋭に絞って、事務所として勝ち筋が見えるVTuberをデビューさせることで、VTuber事務所としてのブランド/ファンの満足度を高いまま維持するような戦略を取っています。
2.YouTubeを伸ばすアカウント戦略
ミリプロが圧倒的に強みを持つのがショート動画を伸ばす再現性です。コロナ禍の在宅期間にYouTubeでの生配信がハマって、視聴時間が伸びたVTuberさんは今でも活動は生配信が主になっています。
生配信は自分1人で行うことができ、準備できたらボタン一つですぐに開始ができ、アーカイブを残せば動画としてYouTubeのチャンネル上にコンテンツが増えていきます。そのため、VTuber目線はコンテンツ準備の負担が小さいことが大きなプラスなポイント。
生配信は、ファンとの接点を長時間持てるため、ファンの離脱を防ぐという意味でも有効なコンテンツ発信手法です。
ですが、生配信にも弱点があります。それが新規ファンを獲得しづらいという点です。
実際、いくらVTuberが好きな人でも、あまり知らないVTuberの生配信を見続けるのはハードルが高いです。というのも、生配信は、雑談がベースとなって、ゲームなどが一緒に入ってきます。
そのため、そのVTuberに詳しくない人は、雑談の前提が理解できておらず、なかなか楽しめないということがあります。加えて、自分がその配信を見始めた時が話題の途中である可能性もあり、いきなり「これは何の話だ!?」となる可能性があります。
つまり、生配信はファンの潜在層からすると、いきなり楽しめる可能性が低いコンテンツ形式という側面もあるのです。
ショート動画戦略
こうしたなかで、ミリプロが力を入れているのが「ショート動画」です。
YouTubeが長尺動画になりかけていた中、TIkTokが登場したことで短尺動画が市場の主導権を握りつつあります。若年層であればあるほど、長尺の動画を見ない傾向が高まっています。
そうした市況の中で、ショート動画であまりそのVTuberに詳しくなくても楽しめるようにしたのが「ミリプロ」です。興味を持ちやすい構成で大量にコンテンツ制作することで、新規ファンを獲得しやすい状況を作り出しました。
これがミリプロが所属タレントを、全員一定期間である程度の規模までYouTube登録者数を増やせている背景です。
ちょうどミリプロがこの戦略を取ったタイミングがYouTubeがショート動画がアルゴリズムから評価されやすくなったことも、大きく伸ばす一員になったと考えられます。
▼【推しの子】どうしても『星野アイ』になりたかったのでなってみた【#甘狼このみ 】
自身のモデルをその時トレンドだった「推しの子」に合わせて、主人公、星野アイの目を書いてみたなどの話題性あるショート動画を出すことで、潜在層でも「気になる」状態を作り出しています。
ショート動画で気になった場合、他のショート動画も見るようになり、だんだんそのVTuberに対する興味が上がっていきます。そこでチャンネルに投稿されている長尺の動画や生配信を見ることで、どんどんハマっていくという導線を綺麗に設計していることが分かります。
このように、にじさんじやホロライブなど他のVTuber事務所と一線を画す戦略でアカウントを伸ばす再現性を持っているのが「ミリプロ」です。
VTuber事業を行う上での資金調達について【会社経営編】
ここでは、2025年6月に実施された資金調達を中心にミリプロという事務所が構想していることを、VTuber業界の専門家として株式会社uyetがご紹介します。
一体どういった資金調達だったのか…?

25年6月に発出されたプレスリリースによると、株式会社MIXIや株式会社バンダイナムコエンターテインメント、個人投資家等を引受先とした第三者割当増資により総額約1.8億円の資金調達であったことが分かります。
▼資金調達に関するプレスリリースはこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000152339.html
他のVTuber業界企業の資金調達をご紹介
株式会社Blackbox

2021年設立の株式会社Blackboxは、2.5次元IPのプロデュースやマネジメントを主事業とし、リアルとバーチャルを横断するVTuberグループ「らびぱれ!!」や「クインテ」の育成・運営を手がけています。
25年5月に実施したシードラウンドのセカンドクローズとして、ニッセイ・キャピタル株式会社、株式会社ANOBAKAを引受先として7,500万円の資金調達を実施し、累計調達額は1.5億円となりました。
株式会社any style

株式会社any styleは、新VTuber事務所「my dear. production」と事務所公式推し活アプリ「my dear.」を展開するにあたり、国内外のベンチャーキャピタル6社から約1.2億円の資金調達を実施しました。
株式会社Brave group

株式会社Brave groupは、株式会社サードウェーブ、住商ベンチャー・パートナーズ株式会社、株式会社Yostar、REALITY株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、松竹ベンチャーズ株式会社からの出資、また株式会社静岡銀行からの融資によってシリーズDのラウンド総額は31.1億円、2017年10月創業時からの累計調達額は約58億円となりました。
他事務所と比較したミリプロの資金調達について
ミリプロは、バンダイナムコエンターテインメントが出資していることから、小中学生から人気を有するIPとして評価されていると考えられます。
VTuberとしてYouTubeなどでの配信で稼いでいくことが軸ではなく、IPとして商品化やグッズなどのマーチャンダイジングの発展性を期待されてバリエーションがついています。
これは、独自の戦略で小中学生が特に好むショート動画を主戦場にしているミリプロだからこその評価と言えます。
なぜこのタイミングで調達したのか?
ミリプロは先述の通り、にじさんじやホロライブとは明確に違う路線でVTuber事業の展開を描いています。マーチャンダイジングの拡大は、商品開発や販路確保などY、ouTubeのコンテンツ制作などとは別の高い専門性が必要になります。
そうした高い専門性を持つ人材を増員し、よりマーチャンダイジングの部門拡大に対する投資額が一定必要になったため、今回資金調達を実施したと考えられます。
実際、資金調達を発表したプレスリリースにも、下記の通り、明記されています。
・所属タレントのクリエイティブ制作体制、及びサポート体制の強化
・若年層に向けた実店舗展開および物販基盤の構築
・新しい価値創造に向けた事業提携の推進
小中学生のファンを増やしていくためにも、既存ファンからの収益性を改善するためにも、全国の小中学生が生活圏の店舗でミリプロのVTuberのグッズを購入できる状態をつくることが次のフェーズの鍵となります。
今後の展開
今後は、大手小売店やメーカーと連携したコラボ商品の販売が増えることが予想されます。
VTuber事務所の中で、ここまで女子小中学生のファン率が高い事務所はないため、その強みを活かして収益性を改善していくことが考えられます。
まとめ:ミリプロが切り開くVTuberビジネスの新潮流
株式会社Million Productionの資金調達は、VTuber業界において“事務所そのものが資金調達を行う”という稀有な動きです。
本記事では、ミリプロという新興事務所が「どこから来て」「何を目指し」「どうやって差別化を図っているか」を、基礎情報やタレント構成、強み、事業戦略、資金調達背景、そして今後の展望という流れで徹底分析してきました。
以下、要点を振り返ります。
1.既存VTuberを軸に“設立”された事務所
- 甘狼このみを“設立メンバー兼0期生兼クリエイター”として設立。
- VTuber本人が顔となりつつ事務所運営にも関わるスタイルを採用。
2.「クリエイティブ」を軸に据えたタレント育成
- 歌・イラスト・デザイン・動画編集といった多様な“武器”を重視し、タレントの個性を活かす方針
- 少数精鋭体制でデビュー人数を抑え、一人ひとりを丁寧に育てる構造
3.YouTubeショート動画に注力する新規ファン獲得戦略
- 生配信・長尺動画で既存ファンを維持しつつ、ショート動画を通じてライトな視聴者(潜在層)にもリーチ。
- 導線設計を意図的に整備している。
4.1.8億円調達の意義
- グッズ/マーチャンダイジング展開、実店舗進出、クリエイティブ体制およびサポート体制の強化、事業提携促進などを目的とした資金使途。
- 投資家としてバンダイナムコの参画がある点から、小中学生層へのIP展開が高く評価されていると推察。









