テレビやSNSを眺めていると、日々耳にするようになった「推し活」という言葉。好きなアイドルやキャラクター、いわゆる「推し」を様々な形で応援するこの文化は、今やコアなファン層だけでなく幅広い世代に浸透しつつあります。
近年では、自治体や企業が推し活を活用したサービスを展開するなど、マーケティング手法としても注目を集めています。
このように多くの業界へと広がりを見せる推し活の盛り上がりを背景に、「自分もこの波に乗れるようなビジネスを立ち上げたい」と思う方も増えているのではないでしょうか。
本記事では、
- なぜ多くの人が推し活にハマるのか、魅力と背景
- 消費者の年齢層や特徴
- 推し活を実際に起用しているビジネスの例
について詳しく解説します。推し活ビジネスに興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
今話題の「推し活」とは?推し文化の理解を深める
急速に人気を高めている「推し活」。
この活動を知るためには、まず「推し」という言葉の意味を知る必要があります。
- 推し:応援する対象
- 推し活:推しを応援するすべての活動
「推し」とは
「推す(=応援する)」対象のこと。
対象はアイドルや俳優、スポーツ選手にとどまらず、アニメや漫画のキャラクター、VTuber、YouTuberなど多岐にわたります。もともとはファンの間で使われていた言葉ですが、SNSを通じて広まり、現在は一般的な言葉として定着しています。
「推し活」とは
「推し活」とは、自分の「推し」を応援するためのあらゆる活動のことです。
例えば、ライブやイベントに参加する、関連グッズを購入する、SNSで応援コメントを投稿する、応援広告を出すなど、さまざまな形があります。
コンテンツごとの「推し活」スタイル
推し活のスタイルは、コンテンツの種類によって少しずつ異なります。
ここでは代表的な3つのコンテンツを例に、それぞれの推し活の特徴を見ていきましょう。
主な推し活のコンテンツと活動例
- アイドル・俳優:ライブへの参加、CD購入、握手会・イベントへの参加
- アニメ・キャラクター:グッズ集め、コラボカフェ、聖地巡礼
- VTuber:配信の視聴、スーパーチャット(投げ銭)、ボイス・グッズの購入
推し活スタイルはコンテンツによって異なりますが、その違いを生む理由の1つとして挙げられるのが、推しとファンとの「距離感」です。
俳優やアイドルとの距離は比較的遠い一方で、VTuberはYouTubeなどの配信プラットフォームを通じてリアルタイムでコミュニケーションが取れるため、より距離が近いのが特徴です。
なぜ多くの人が推し活にハマるのか?
これほどまでに多くの人が推し活に熱中する背景には、SNSのトレンド化や消費者層、オタク文化に対する認識の変化など、現代ならではの要因が関係しています。
SNSの普及による、レコメンド時代の影響
かつて自分の推しについて語る場は限られていましたが、現在はX(旧Twitter)やInstagram、TikTokといったSNSの普及により、誰もが日常的に推しの情報をシェアできるようになりました。
とくに、「いいね」を代表とするレコメンド機能は、SNS上で推し活を普及させる大きな要因になっています。
「いいね」一つするだけで、自分の興味に沿った情報が大量に流れてくるため、求めているコンテンツへ簡単にアクセスできるようになりました。
SNSでは、たくさんの人々が自分の推しへの熱量を発信したり、同じ推しを応援するファンとつながったりすることで推し活に没入しています。
また、バズりが承認欲求を向上させ、より一層推し活にのめり込むきっかけにもなっています。
多くのファンがデジタルネイティブ世代であること
推し活の中心にいるのは、スマートフォンとともに育ってきたZ世代をはじめとするデジタルネイティブ世代です。
この世代は、物心ついた頃から動画配信やアニメキャラクターに親しんでおり、VTuberなどの架空の存在を応援することに抵抗が少ない人が多いです。
そのため、推しがYouTubeや配信アプリの中にいても違和感がなく、「動画や配信を見ること」=「推しに会いに行く」というような感覚を自然に持っています。この価値観によって、VTuberやバーチャルアイドル文化は急速に広まり、彼らを応援する推し活の人気も高まりました。
「オタク」を公言するハードルの低下
15~20年前までは、アニメや漫画のファン、「オタク」に対する強い偏見や差別がありました。
しかし、近年はSNSや価値観の変化によって、「推しがいること」や「オタクであること」が一種のステータスとして捉えられるようになっています。
そのため、「オタ活」の類義語とも言える、アイドルやVtuberなどを対象とした「推し活」がより一般的かつポジティブなイメージで広がりを見せています。
実際に、博報堂の調査レポートによると、日本人の3人に1人が「自分には推しがいる」と自認しています。このデータからも、推し活がすでに多くの消費者にとって身近な活動になっていることがうかがえます。
行政も「推し活」に注目。観光誘致から地域創生まで活用が広がる
「推し活」と聞くと、エンタメ業界をイメージされる方が多いかもしれません。しかし、推し活はエンタメ業界のみならず、地域経済にも貢献しています。
ここでは、推し活の影響力を活用したプロジェクト例を2つ紹介します。
「ラブライブ!」× 静岡県沼津市:聖地巡礼から始まる移住政策
静岡県沼津市では、移住促進の一環として、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」とのコラボを展開。

キャラクターとのコラボイベントをはじめ、キャラクターがプリントされたタクシーや鉄道、駅広告などによるプロモーションを通して、沼津市に移住するファンは急増しました。
上記のデータを見ると、2018年度には86人だった移住者数が、2023年度には378人にまで増加しています。「ラブライブ!」とのコラボは、沼津市の移住政策に大きな効果をもたらしたことが伺えます。
VTuber × ふるさと納税:VTuberと日本全国のふるさとを応援する地域創生プロジェクト
また、株式会社uyetが手がける「まちスパチャプロジェクト」ではVTuberと地域が連携し、地域振興を行うという画期的な試みが行われています。Vtuberの皆さんの力をお借りし、地域のふるさと納税をプロモーションする新しい地域創生プロジェクトです。
こうした事例からも分かるように、推し活はエンタメ業界にとどまらず、行政にも大きく寄与しているトピックです。
推し活市場のマーケティングとビジネス事例を解説
次に、推し活をビジネスとして活用することで得られる効果や、具体的なマーケティングやビジネスの事例を紹介します。
「推し活」市場は急成長中!
矢野経済研究所の推計によると、推し活市場における主要16分野の合計市場規模は、2024年に1兆円を超えると見込まれています。
2023年の段階でも、アニメ市場は約3,450億円、アイドル市場は約1,900億円に達し、合計で約5,350億円です。
2023年に新型コロナウイルスによる自粛ムードが本格的に明けたこともあり、今後さらなる市場拡大が期待されています。
推し活ビジネスのメリット
ビジネスとして推し活を取り入れることには、以下のメリットがあります。
- ブランドロイヤルティと継続的な関係性が収益につながる
- UGCとファン心理の相乗効果が最大のPRになる
- Z世代へのアプローチ
ブランドロイヤルティと継続的な関係性が収益につながる
推し活を行うファンは「一度買って終わり」ではなく、継続的にコンテンツを消費する傾向があります。
特に、VTuberのようなファンとの交流が多いコンテンツでは、関係性や信頼の積み重ねがこのような消費行動の土台となっています。
推しの活動や発信が定期的に更新されることで、「もっと知りたい」「支えたい」といった感情が生まれ、ファンはグッズやイベント、コラボ商品、駅前広告など、推しに関連するサービスや商品に繰り返し支出します。
このように、推しとファンの信頼関係が継続的な支出を促し、長期的な利益をもたらすのです。
UGCとファン心理の相乗効果が最大のPRになる
「推しに関わるものは全部欲しい」「誰よりも応援したい」といった高い熱量により、SNSでの発信やクチコミ投稿が活発に行われます。このようなUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、マーケティングにおいて非常に価値のあるコンテンツです。

第三者であるファンによる口コミは共感を誘い、信頼性や説得力が高まります。これにより、企業の広告以上に強い影響力を持った、自然なPRが可能です。
Z世代へのアプローチ
推し活市場はZ世代(10〜20代)を中心に広まっています。
これは、企業にとって若年層との接点を生むチャンスです。Z世代の人々はSNSを日常的に使用しているため、インターネット上で行われる推し活を通して効果的にアプローチできます。
また、評判の良いコンテンツはSNS上で「バズり」として爆発的に拡散します。この「バズり」を利用することで、自社宣伝以上の宣伝効果を生み出すことも可能です。
推し活ビジネスサービスの事例5選
ファンの高いリピート率やブランドロイヤルティの向上、若年層へのアプローチなど、さまざまな良い効果をもたらす推し活ビジネス。その成功事例をいくつか見ていきましょう。
推し活ビジネスの事例
- 大日本印刷(DNP)「推し活グッズ」
- Cake.jp「推しケーキ」サービス
- Oshimy「推し活チャットサービス」
- Oshibana「推し活アプリ」
- センイルJAPAN「応援広告」
大日本印刷(DNP)「推し活グッズ」
大日本印刷(DNP)は、誰でもオリジナルの「推しグッズ」を簡単に作れるサービスを提供しています。ユーザーは、好きなキャラクターやアイドルのアクリルスタンドやミニサイズのフォトグッズなどを低コストで制作できます。
また、フォトグッズの販売をサポートするサービス、「Imaging Mall with オンライン」を展開。
コンテンツ画像をアップロードするだけで、簡単にフォトグッズのオンライン販売が始められます。注文を受けてから製造をする受注生産形式のため、在庫リスクの心配はありません。
Cake.jp「推しケーキ」サービス

Cake.jpは、「推しケーキ」を注文できるスイーツECサイトです。
「推しケーキ」とは、好きなアイドルやキャラクターの誕生日や記念日などを祝うために、オーダーメイドで作られるケーキのこと。Cake.jpでは、ケーキにイラストをプリントできたり、名前を入れたりすることができます。
また、オーダーメイドのケーキをハッシュタグとともにSNSに投稿するフォトキャンペーンを実施し、Z世代を対象とした「バズり」を狙っています。
Oshimy「推し活チャットサービス」
2024年5月株式会社Oshibloomは、推しを独り占めできる妄想チャットアプリ「Oshimy」をリリース。
ユーザーはAIチャットを通して、アイドルや俳優、Vtuberなどの推しと疑似的な会話を楽しめます。このサービスは、ユーザーの承認欲求を満たし、SNS上で自由に語ることができないフラストレーションを解消することを目的としています。
Oshibana「推し活アプリ」
株式会社ブックリスタが開発したアプリ「Oshibana」は、推し活の記録や管理ができるアプリです。
好きなキャラクターの誕生日や配信日を管理するだけでなく、推し画像を使ってホーム画面やキーボードをアレンジすることもできます。こうした推し活の見える化がユーザーの購買意欲を高めています。
Oshibanaは、2024年5月時点で12000ダウンロードを突破し、App Storeで「今日のアプリ」にも選出されました。
センイルJAPAN「推し広告」
新宿や渋谷などの大型ビジョンや駅構内で見られる、VTuberやアニメキャラクターの広告。
これらは「推し広告」と呼ばれ、ファンが自主的に行っている活動です。

センイルJAPANは、「推し広告」を掲載するファンをサポートしています。相談からデザイン制作、広告の実施報告まですべてLINEで完結するため、手軽にサービスを利用できることが特徴です。
もともとは韓国のアイドル文化から始まりましたが、現在では日本の俳優やVTuberにも広がっています。
最近はVTuberの煌良はるさんや、声優の天知遥さんのお祝い広告が掲載されました。
ファンによる推し広告・応援広告が広がる、2024年のアンケート調査結果
株式会社IWの調査によれば、推し広告の市場規模は約369.8億円に達すると推定され、非常に大きなものとなっています。
こうした背景を受けて、「センイルJAPAN」のような広告掲載の手続きをサポートするサービスは、推し広告ブームに乗った新たなビジネスとして注目を集めています。
採用や福利厚生にも推し活を導入
推し活の影響は趣味にとどまらず、企業の採用や福利厚生にも広まっています。
ここでは、推し活を起用した事例を2つ見ていきましょう。
推し活採用
アパレルブランドを展開する株式会社yutoriは、「オタク採用」というユニークな人材採用プロジェクトを実施しました。
このプロジェクトでは、書類選考の段階で「推し」についての設問を設け、応募者の熱意を評価しています。特定の分野に強い関心を持ち、それを探求するオタク特有の専門性を活かすことが一つの狙いだと考えられます。
推し活休暇

デイサービスの運営など、介護事業を展開するウコウコヤオ株式会社は、職員の趣味を応援する取り組みとして「推し活休暇」を導入。
推し活休暇とは、推しの誕生日やライブなどに合わせて休暇を取得できる福利厚生制度のことです。社員のプライベートを尊重し支援することで、従業員満足度の向上にも寄与しています。
推し活ビジネス、VTuber起用の成功事例3選
推し活ビジネスは、いわば「推し企業」のコラボレーションと言えるでしょう。
これは、ビジネスの希少性を高めると同時に、顧客に新たな価値を提供できるチャンスです。その希少性を上手く活用し、推し活ビジネスで成功したプロジェクトを3つ紹介します。
まちスパチャプロジェクト

「まちスパチャプロジェクト」は、株式会社uyet(ユエット)による地域創生を目的としたプロジェクトです。
VTuberが漫画や動画、生配信などを通して地域の観光や特産品をPRし、ふるさと納税のプロモーション活動を行っています。
本企画は、Vtuberと地域のブランディングのみならず、若年層と地域の直接的なつながりを生み出すことで新たな顧客創出にもつながっています。
例えば、岡山県新見市が参加した「まちスパチャプロジェクト」では、40名以上のVtuberが新見市の特産品や観光地を発信しました。また、期間限定でVTuberと新見市がコラボした返礼品も販売されました。
その結果、X(旧Twitter)上の口コミ数が増え、ふるさと納税の寄附数は一昨年の約2倍となりました。
茨城県 バーチャル広報 茨ひより さん

VTuberの「茨ひより」さんは、行政がVTuberを活用した先駆的な事例の一つです。
2018年、茨城県が運営する動画サイト「いばキラTV」の公式アナウンサーとしてデビューして以来、茨城県の魅力を発信し続けています。
彼女は主にYouTubeでの動画投稿や各種イベントへの参加を通じて、茨城県の観光や特産品を紹介。その親しみやすいキャラクターが若年層やVTuberファン層を引きつけ、従来の広報手法では届かなかった層への情報発信に成功しています。
茨ひよりさんの活躍が後押しとなり、2019年まで「都道府県魅力度ランキング」で7年連続最下位だった茨城県は、わずか1年で最下位を脱出しました。
さらに、茨ひよりさんを起用したイベントやグッズは、ファンと茨城県との継続的な繋がりも生み出しています。
ネット発祥の人気コンテンツが集結する「ニコニコ超会議」への参加や「いばらき県産品お取り寄せサイト」でのオリジナルグッズ販売など、その経済効果は約5億円に及ぶと言われています。
大神ミオ さん × 群馬県

VTuberグループ「ホロライブ」に所属する大神ミオさんが群馬県とコラボ。
YouTubeでPR番組『VTuber大神ミオのReal群馬レポ』が配信されました。
動画では、群馬県のグルメや名所の紹介、山本一太県知事との対談が配信され、通常の動画と比べて爆発的な再生回数を記録。
ホロライブ公式YouTubeチャンネルで配信された山本知事との対談動画は13万回以上再生され、X(旧Twitter)やYahoo!などでもトレンド入りしたことで、大きな話題を呼びました。
また、高い熱量を持ったホロライブファンが他県から群馬県を訪れ、観光面でも良い影響が見られました。
「推し活」ビジネス参入は今がチャンス
今回は、「推し活ビジネス」について、その概要から具体的な成功事例までを紹介しました。
推し活はもはや一過性のブームではなく、若年層を中心に定着した新しいライフスタイルです。特にVTuberコンテンツは、今後も市場拡大が見込まれており、まだ競合も少ない分野です。今こそ、ビジネスとしての参入に最適なタイミングといえるでしょう。
- 推し活はZ世代を中心に急速に広まり、巨大な市場を形成している
- 推し活とは、自分の好きなキャラクターやアイドルなどの「推し」を応援するあらゆる活動を指す
- ファンの継続的な支出やファン心理を活用したPR効果、Z世代へのアプローチなど多くのメリットがある
- VTuberやアイドルを中心に、グッズ、イベント、カフェ、アプリなど多様な形で関連ビジネスが展開されている
- 成功の鍵は単なる商品販売ではなく、「共に応援する体験」や「推しの世界観への没入」といった価値の提供にある
推し活ビジネスに関心を持った企業・自治体の方は、ぜひ株式会社uyetへお気軽にお問い合わせください。