11月7日に開催させていただいたウェビナー「投資家/銀行が見る評価ポイントとVTuber事務所の事業戦略!」ですが、多くの方にご参加いただき、大盛況の中で終えることができました。
今回の記事ではウェビナーの内容についてレポートさせていただきますので、ウェビナーを惜しくも見逃してしまった方や内容を見返したい方はぜひご覧ください。
今回のウェビナーのテーマ
拡大を続けるVTuber市場において、事業の成長には資金調達が不可欠です。しかし、一部では「VTuberはエンターテイメントにおいてリスクが高い」「事業の採算性が見えない」といった声も聞かれる中、どのように資金を調達すればよいか悩む企業・事務所も少なくありません。
本ウェビナーでは、VTuber事業における資金調達の「壁」を乗り越えるための戦略をuyet代表プロデューサーである金井洸樹が解説。投資家や銀行がVTuber事業をどのように評価するのか、そのポイントを明確にし、両者から評価されるVTuber事務所になるための具体的なアプローチについて説明させていただきました。
本ウェビナーの登壇者様のご紹介
今回のウェビナーの登壇者をご紹介します。
【株式会社uyet】 代表プロデューサー 金井 洸樹

2018年よりANYCOLOR株式会社でVTuber事業立ち上げに従事し、キャラクターを用いたコンテンツの企画/運用、企業案件配信の企画などを担当。 現在は株式会社uyetにてVTuberを用いた新規事業開発、プロモーション事業、マーケティング事業、VTuber支援事業を展開中。またJA全農様と朝日新聞社様と連携してライブコマースイベントを開催。
3.ウェビナーの内容について
なぜ「今」VTuber事業に資金調達が必要なのか
VTuber市場のフェーズが変わるタイミング

金井まず初めに「なぜ今VTuber事業に資金調達が必要なのか」という点について、前提となるお話から進めていきたいと思います。
そもそも、一般的なプロダクトライフサイクルの観点から見ると、現在VTuber市場はフェーズの転換点に差し掛かっていると考えています。
導入期・成長期はすでに超えており、今は成長成熟期に位置しています。ここから衰退期に向かうのか、あるいは再編期として再度の盛り上がりに向かうのか、その境目にあるというのが私たちの見立てです。
では、これまでどういった背景があったのかを簡単に振り返ります。
最初のバーチャルYouTuberが登場したのは2016年12月。その後、VTuber文化が広がり始めたのが2017年末頃でした。そして「にじさんじ」さんが誕生し、3DモデルではなくLive2DでもVTuber活動が可能になったことが広く認知されたのが2018年初頭〜中頃です。
この時期にVTuber業界の第1波の盛り上がりが訪れ、スタートアップ企業などがVTuber領域に参入し始めたタイミングでもありました。
そこからさらに波があり、2020〜2022年にはコロナ禍の影響を受けてVTuber市場はむしろプラスに働きました。視聴者の絶対数が増え、ファンが定着、ブランド形成も急速に進んだのがこの時期です。
また、にじさんじを運営するANYCOLOR株式会社さんが上場したのが2022年5月、ホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社さんが上場したのが2023年3月です。
これらの企業の上場の出来事や2023年6月の市場変更などをきっかけに、ナショナルクライアントやメディア、さらには自治体などがVTuberを起用する機会が一気に増えました。
一つのキャラクターとして社会的な認知が高まり、活躍の場が広がったのがこの時期ですね。





そこから約2年が経ち、当時参入した企業の結果が徐々に表れ始めているのが現在です。まさに「衰退期に向かうのか、それとも再編期として次の段階に進むのか」という重要な局面に来ており、2025年はその分岐点にあたると考えています。
ここまで市場が変わりつつある状況について触れてきましたが、「衰退期なのか、再編期なのか」という点については、市場が転換期を迎え、競争が加速しているフェーズであると捉えています。
理由はいくつかあります。まず、新規参入数が減少傾向にあることです。もちろん一定数の新規参入は続いていますし、目立つ大規模参入も存在します。しかし、全体の新規参入数は年単位で見ると減ってきている印象があります。
また2023年頃から参入した企業の中には、事業撤退を選択するところも増えています。さらにM&A・事業統合、キャッシュフロー難による倒産なども見られるようになり、こうした動きがニュースとして取り上げられることも増えてきました。
2025年はスタートアップの資金調達額が減少している





先ほど申し上げた通り、現在のVTuber業界は市場の再編が進み、成長の過程で痛みを伴いながら変化している状況にあります。
このような局面において、スタートアップ全体の市況、つまり「これから新規に事業を立ち上げる」という観点で見ると、実はVCによる投資額そのものが減少傾向にあります。
スタートアップ市場全体がやや冬の時期に入っているというのが実情です。そのため、VTuberをベンチャービジネスとして捉えた場合、資金調達面では厳しさが増していると言えます。
ただし、弊社に寄せられるお問い合わせや事業開発周りでの相談状況を踏まえると、案件自体はむしろ増えているという印象があります。そうした観点から、先ほど「衰退期というより再編期に近い」というお話をしましたが、実際のところどう転ぶかはまだ読めない部分もあります。
一方で、新陳代謝が進みつつ再び成長に向けた動きも見られるため、痛みを伴いながら再成長しているフェーズだと捉えています。つまり、良くも悪くも「変化の時期」であるという点をご理解いただきたいと思います。
そして、この状況の中で現在VTuber市場で成功している、あるいは目立っている企業はどういったところなのかという点についてお話しすると、実際にはしっかりと資金調達を行い、大規模に取り組んでいる企業が目立つ傾向にあります。
資金格差が業界を狭める?





市場が再編期に入りつつある現在、資本力や企業としての体力が結果に反映されやすくなっていると感じています。
そのため、新たに参入する中小規模の事務所やこれから立ち上げを検討している事務所にとっては、技術レベルやユーザーが求めるクオリティに対応するためのコストが以前よりも大きくなっているという課題があります。
さらに、タレント志望者の数は右肩上がりで増え続けており、市場が未成熟だった頃のように、チャレンジ精神の強い層だけでなく、より幅広い層が志望者として参入するようになりました。その結果、採用の難易度や育成の難しさが高まっている側面もあると考えています。
加えて、物価高騰や人件費の上昇により、運営コスト全体が上がっていることも事実です。そのため、資金繰りが厳しくなり、「このままでは事業継続が難しい」という事務所も少なくないという印象があります。
一方で、資金さえあれば売上を伸ばせるポテンシャルや成長余地がある企業も多く、そうした企業はM&Aや他社との協業によって再編に向かうケースが、この1〜2年で増えてきています。
今回のテーマである「資金調達」について触れますと、すでに売上をしっかり出している事務所は、その利益を再投資しながら良い循環を作り、規模拡大やファン基盤の強化を図ることができています。
この再投資のサイクルが確立されることで、より大きな施策を企画・実行し、ファンコミュニティを拡大し、体制を盤石にしていくという流れが生まれています。
とはいえ、これはあくまでマーケット全体が拡大していく前提での話です。事業単体で見た場合、資金調達を行い、投資を回しながら事業を成長させていくことは、事業運営における最重要課題の一つです。
資本力で大手に勝つことは難しくても少額投資を戦略的に活用する、いわゆるランチェスター戦略的なアプローチも可能ではありますが、それでも成長のためには最低限の資金的な余力が必要であるという点は変わりません。
投資家/銀行は投資する際に何を見ているのか
前提:「出資」と「融資」の違い





そもそも資金調達には出資と融資の2種類があり、VCから調達する場合は「出資」、銀行から調達する場合は「融資」となります。
投資家が見る評価軸





基本的に投資家の方々というのは、自分が投じた資金を回収したり、より大きく増やしたりすることを目的として投資をしているという背景があります。
そのため、まず前提として「お金が将来どれだけ増えていくのか」「規模がどの程度拡大していくのか」といった未来の成長性を重視して見られているという点があります。その上で、将来的に自分の資金がしっかり戻ってくるのかが最優先事項になります。
そのため、資金回収に不安を感じさせる情報や、逆に将来性への期待値を持てる情報をその会社が備えているかどうかが、特に注目されるポイントになります。
つまり、ビジネスモデルがしっかりしているか、再現性高く事業を伸ばしていけるか、最終的にどの規模まで成長できるのか、そして避けられないリスクに直面した際にも伸び続けられるのか、もしくは一時的に落ち込んでも立て直せるモデルなのかといった点が見られているということです。
このように、主に「未来の成長」を重視して判断されていると考えていただければと思います。
銀行が見る評価軸





次に、銀行が重視するポイントについてご説明します。銀行が主に確認するのは、大きく分けて4つです。収益の安定性、財務の健全性、返済計画の現実性、そして代表者の信用です。
では、この4つの評価項目がどこから来ているのかという点ですが、銀行は「融資」という言葉のイメージとは少し違い、基本的には設備投資や事業の運転資金として資金を貸し付けるというロジックで動いています。
つまり、銀行は現在の状況よりも「過去にどのような実績を積み重ねてきたか」を重視して判断するのが基本だと思ってください。
そして過去の実績を踏まえ、「この人なら設備投資として貸したお金をしっかり返してくれそうか」という観点で評価されます。
まとめると、投資は“未来どう成長するか”が重視され、融資は“過去に何を積み上げてきたか”を基に返済能力を判断されるという違いがあります。この点を押さえておくと、とても分かりやすいと思います。
そのため、同じ「資金調達」という言葉であっても、投資なのか融資なのか、あるいは受けに行く先によって、見られるポイントがまったく異なります。ここを正しく理解していただければと思います。


VTuber事務所がぶつかる資金調達の「壁」とは
調達が難しくなる3つの理由





1つ目は収益モデルの属人性の高さです。
かつてVTuber事業は「炎上リスクが低い」「キャラクター分散により属人性が低い」と評価され、資金調達しやすい環境がありました。しかし現在、多くのVTuber事務所がタレント依存型の構造になっており、「特定タレントが抜けた場合のリスク」を懸念されやすくなっています。
大手企業も株主に同様の懸念を問われており、中小事務所単体ではリスク説明が難しいという状況があります。将来の市場拡大が見込める文脈に乗れるかどうかも、調達難易度に影響します。
2つ目は数字管理の粗さとユニットエコノミクスの説明の困難さです。
VTuber事業は、投資額に対してどれだけ回収できるのかが見えづらく、PMF(プロダクトマーケットフィット)を判断しにくいケースも多いといいます。そのため「どのくらいの投資で事業にレバレッジが効くのか」を説明しづらく、調達の際に説得材料を示しにくい点が課題となっています。
3つ目は事業全体のゴールイメージが不明確になりがちであることです。
例えば「IPOを目指す」と掲げても、上場後にどのように事業が成長し続けるのかを描くのが非常に難しいという問題があります。これはVTuberに限らず、エンタメ、ブランド、ものづくりなど多くの領域に共通する課題です。将来のスケール戦略を明確に語れないと、調達の説得力は弱まります。
まとめると、VTuberや推し活市場で事業をスケールさせるためには、これら三つの壁を理解したうえで、「なぜ自社の事業は持続し、成長できるのか」を丁寧に説明する必要があります。


どうすれば投資家/銀行に評価される事務所になるのか
評価されやすい事業構造





VTuber・エンタメ事業において投資家から評価されるために必要な「5つの柱」について説明します。左側の3つ(組織設計・財務設計・ビジネス設計)は、あらゆる業種で共通して求められる基礎的要素であり、右側の2つ(プロダクト・人を魅了するギミック)は、特にエンタメ産業で重要になる追加要素となります。
まず組織設計は、チーム体制や契約や権利関係が整備され、ビジョンが浸透した組織運営ができているかを問うもので、投資家が「このチームに任せてよいか」を判断する基準となります。
次に財務設計は、事業別損益、損益分岐点、キャッシュフローなどを明確にし、健全な資金管理ができているかを示す。いわば「この会社はお金の管理が信頼できるか」の指標です。
3つ目のビジネス設計は、事業の勝ち筋、市場規模、競合優位性などから、事業としてどれだけ伸びる可能性があるかを示す要素であり、事業自体のポテンシャルを測る指標になります。
これら3つだけなら一般的な事業としては十分な場合が多いですが、エンタメやVTuber市場特有の難しさから、さらに2つの要素が不可欠となります。
4つ目のプロダクト(UI/UX、ブランド、カルチャー)は、最終的にユーザーが触れる部分であり、どれだけ良い組織や財務状況でも、プロダクトが好まれなければ支持は得られません。
特にエンタメでは「好きになってもらえるか」が事業の命運を握るため、ブランド思想や世界観設計が重要となります。
5つ目の 人を魅了するギミックは、ファンビジネス特有の要素であり、ユーザーを単なる利用者ではなく「ファン」に転換させるための仕組みです。
これは時代背景(ニコニコ文化・アニメ・ボカロなど)、エンタメトレンド、テクノロジーの進化、スイッチングコスト、代替不可能性といった複数の文脈要素から構成されます。
VTuberもこれらの時代の積み重ねによって必然性が形成されており、これらが語れないと投資家は「なぜこの事業が成立するのか」を理解してもらえません。
これら5つの柱すべてが揃わなければ、現在の冷え込んだ投資環境では調達が難しいですが、一方でこれらを満たせる事業は依然として大きなチャンスがあります。
逆に銀行融資は投資家と異なり、五つの柱すべてを必要とするわけではなく、主に返済能力=財務の健全性が重視されます。無駄遣いせず、投資が事業の成果に結びついていることを示せれば融資は受けやすいと言えます。




まとめ:本日のポイント





VTuber市場だから特別に必要な要素があるわけではなく、エンタメやIP産業として事業運営が成立しているかが最も重要です。
投資や融資を受ける際も、まずは運営体制やチームのポテンシャルなど、事業としての基盤が整っていることが評価されます。「VTuberブームだから」という理由で資金が集まる時代はすでに終わっており、今は計画性ある事業計画を示すことが求められます。
また、最近話題になるVTuber事務所のトラブルも業界特有ではなく、どの業界でも起こりうるものです。一方で、必要な五本柱を備えた企業は今も着実に成長しているため、風評に惑わされず正しく理解することが大切です。
ウェビナーにご参加いただきありがとうございました!
今回はVTuber事業者を対象に資金調達の「壁」を乗り越えるための戦略をテーマにウェビナーを開催させていただきました。いかがだったでしょうか?ウェビナーにおいてご不明な点、詳しく知りたい点がございましたら株式会社uyetまでお気軽にお問い合わせください。
今後もVTuberに興味のある方やVTuber活用を検討している企業様・自治体様に向けて、お役に立てるようなウェビナーを開催したいと思っております。もしこういったウェビナーを開催してほしいというご要望がございましたら、お問い合わせよりご連絡ください。
また、VTuberウェビナーに登壇したい方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
今後も定期的にウェビナーを開催する予定ですので、ご興味がある方はぜひご参加ください。ウェビナーに関する最新情報は、uyet公式X(旧:Twitter)にて発信をさせていただきます。












