VTuberを続けていると、ファンとの交流や楽しい活動の中で思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。
その中でも、とくに大きなトラブルになりやすいのは誹謗中傷や権利問題です。
誰もが被害者になる可能性があり、対応した方が良いとわかっていてもどうしたら良いのかわからないという方も多いでしょう。
この記事では、VTuber活動に関わる代表的なトラブルの種類や背景について解説します。
VTuber・配信活動で知っておきたい法務トラブルとは
VTuber活動は、配信やSNSの中でリスナーさんと継続的に交流する機会が多いです。またネットを通して交流するため、匿名性が高い文化があります。
リアルな情報に左右されない自由な文化が魅力的な一方で、突発的な炎上や心ない発言にさらされることも。また、VTuberの中の人「演者」への過剰な関心や推測がプライバシー侵害や悪質な噂の温床になるケースもあります。
▼なぜVTuberは誹謗中傷を受けやすいのか
- 生配信のリアルタイム性
- 匿名性の高いSNS・コメントの文化
- 「中の人」への過剰な関心や推測
誹謗中傷・妨害・迷惑行為
リスナーさんによる誹謗中傷や妨害、迷惑行為は、VTuberが直面しやすい深刻な問題の一つ。コメント欄での暴言、SNSでの過剰な批判、意図的な煽りや荒らし行為などが含まれます。
これらは配信者に対する精神的な負担となるだけでなく、今後の配信活動やファンとの関係性にも悪影響を及ぼします。
またVTuberを傷つける言葉ではなくとも、配信の雰囲気を壊すような発言を繰り返す、他のリスナーさんに攻撃的なコメントをするなど、視聴者による迷惑行為も大きな問題になっています。
VTuberにアドバイスと言いながら、配信者に対して指示や批評などのプロデューサーのような態度で接する行為も見られ、VTuberさんを含む配信者の方々を困らせる大きな要因となっています。
イラストやアバターの著作権問題
VTuberの外見や個性を形作るイラストやアバターには、必ず著作権や利用契約が存在します。
VTuber業界にはイラストレーターを「ママ」、モデラーを「パパ」と呼ぶ文化があるほど、VTuberとクリエイターは非常に近い距離にあります。
発注者(VTuber)と受注者(クリエイター)の距離感が近い一方で、著作権や利用の範囲が曖昧であったりするとトラブルになりやすいです。
イラストレーターとの契約内容が曖昧なまま使用を続けると、後々トラブルに発展する可能性があるため知識をしっかり入れて相手と認識を合わせることが重要になります。
また個人間でのイラスト発注において、未納品や報酬の未払いなど、トラブル事例も多く出てきています。
生成AI、ファンアート問題
生成AIを活用したイラストやファンアートの取り扱いは、大手事務所をはじめとして二次創作や生成AI利用についてのガイドラインが設けられるようになってきました。
生成AIツールに公式イラストを学習させることを禁止したり、ファンアートでは公式のハッシュタグを使わないルールを作るなど、対応はさまざまです。
生成AIは、まだ法規制が追いついていないことや悪用するつもりがなかったとしても権利を侵害しているケースもあります。
また個人の場合でも、公式の立ち絵を生成AIに学習することを禁止するイラストレーターさんもいるため、注意が必要です。
守秘義務の違反・契約違反
近年は事務所所属のVTuberさんが守秘義務の違反や契約内容を守ってなかったことで、契約の打ち切りや退所となるニュースが多く出てきました。
事務所所属のVTuberさんが企業案件を受けたり、何か企画に参加する場合は、事務所との契約内容をよく読み、ちゃんと理解したうえで守秘義務を守らなくてはいけません。
規約や契約書を十分に理解せずに情報を扱うと、契約違反や信用失墜につながる恐れがあります。契約書は細部まで確認し、不明点は必ず事前に相談しましょう。
▼参考例:【Vtuberの契約書】企業所属の契約書で気を付ける注意事項について
中の人・演者のプライバシー問題
VTuberの演者に対する個人情報は、活動している本人はもちろん、中の人と関わる人たち全員がしっかりプライベートな情報を保護する必要があります。
VTuberは、タレントと同じ扱いです。配信活動をしていない時は私生活があり、プライベートや交流関係、リスナーに見せたくないこともたくさんあるはずです。
住所や本名、年齢や職場、家族構成などが流出すれば、ストーカー被害や嫌がらせに発展する場合もあります。
配信中やSNSで情報をもらさないことも大切ですが、リスナーや外部の人達が執拗にプライベートな情報の開示を要求したりするトラブルも発生しています。
配信やSNSで不用意に個人情報が推測されるような発言や映像を避け、情報管理を徹底することが重要です。
誹謗中傷やトラブルを避ける3つの事前対策
誹謗中傷などのトラブルは誰にでも起こる可能性がありますが、事前に少しでも対策を行っておくことで発生のリスクを下げられます。
配信やSNSという「誰でもアクセスできる場所」で行われる活動だからこそ、配信コメントやライバーとリスナーの交流ルールをあらかじめ整えておくことが自分を守る第一歩です。
ここでは、すぐに実践できる3つの基本対応をご紹介します。
「やっておけばよかった…」と後悔する前に、ぜひ早めに取り入れてみましょう。
コメント管理やNGワード設定などのルールを設けよう
配信の雰囲気を守るためにも、配信内で視聴者さんに守ってもらうルールを明確にし、周知しておくことはとても大切です。
「特定の言葉は禁止」「他のリスナーへの攻撃は禁止」「他のライバーの話題を話題にするのは禁止」など、これらを配信の説明欄や固定コメントに記載するだけでも効果があります。自分のプロフィールなどに配信を楽しむルールとして記載し、誰でも読めるようにしておくのも良いですね。
また信頼できる・協力してくれる方に配信のモデレーターをお願いして、コメント欄を監視・雰囲気を守ってもらうことも検討してもよいでしょう。もちろん、自分で対応することもOKです。
またNGワード設定などの機能を使うこともおすすめです。
自動的に不適切なコメントを排除できる環境を作れば、「ルールに反しているから対応する」という形で感情的にならずにコメントのブロック、削除を行うことが可能です。
▼大手事務所のライバーさんもそれぞれルールやスタンスを設けている
嬉しいことに人が増えたので改めてリスナールール
— 葛葉 (@Vamp_Kuzu) September 19, 2021
・ほかのチャンネルでは内輪ネタは控えてください
・人を不快にさせるような言動はしないでください
(暴力的、性的、批判的な発言)
・他のチャンネルで無暗に名前を出さないでください
二次創作・ファンアート、イラストの利用範囲の方針を出そう
二次創作やファンの方々による創作活動は、VTuberさんにとって大変嬉しいものですよね。しかし、無制限に受け入れるとトラブルの種にもなります。
例えば、生成AIを使用したファンアートやアダルト表現、過激な改変、公式の告知やアートだと誤認してしまう作品公開など、避けたい内容はなるべく事前に明文化しましょう。
「〇〇は禁止」「△△は歓迎」など具体例を示しておけば、トラブル時も「事前にお知らせしていた」と説明でき、注意やブロックなどの対応が行いやすくなります。
▼参照:大手事務所の二次創作ガイドライン例
▼参照:個人勢、ユニットさんのガイドライン例
個人情報が漏れない配信環境づくりを意識する
配信中の背景や音声、通知などからうっかり個人情報が特定されるケースは意外と多いです。
物理的な対策としては以下のような対策が取れます。
- 配信前はカメラにカバーをつけておく
- マイクはオンオフがわかりやすい物理スイッチつきのものを使う
- 声で特定されたくないなら、フィルターや加工を挟む
- 地域は特定される音が放送される場合はその時間を避けて配信する
(例:選挙カーの音、花火の音、地域特有のアナウンス音など)
普段の会話やSNSでの投稿では、住んでいる地域や行きつけの店など、自身の生活環境、行動範囲の特定につながる話題を避ける意識が必要です。
細かな注意と設備投資で、大きなリスクを回避できます。
誹謗中傷を受けたら、落ち着いて初期対応を行おう
配信コメントやSNS投稿で誹謗中傷を目にした瞬間は、驚きや怒りで冷静さを失いやすいもの。しかし、そんなときこそ感情的にならず冷静に対応することが何よりも大切です。
感情的に反撃すると状況が悪化する場合も多く、後で「やらなければよかった」と後悔してしまうことも。まずは状況を整理し、必要な対応を順序立てて行いましょう。
ここでは、被害を最小限に抑えるための初期対応を、具体的なステップで紹介します。
①証拠を保存、記録する
最初にやるべきは、発言や投稿を確実に記録することです。
発言やコメントを削除されてしまう前に、スクリーンショットや画面録画でコメント内容・投稿日時・投稿者IDなどを残しましょう。
可能であれば、ブラウザのアドレスバーに表示されるURLも一緒に保存すると、後の対応がスムーズになります。証拠を残す前に削除依頼をしてしまうと、記録が残らず対応が難しくなるため要注意です。
▼実践例
- コメント画面やSNS投稿のスクリーンショットを撮る(日時や投稿者IDを含める)
- PCでは画面録画ソフト、スマホでは録画機能を使ってやり取りを保存(流れがわかるように)
- 投稿URLやアカウントページのURLをメモ帳や専用ファイルに控える
- 連続投稿の場合は連番でスクショを保存し、時系列が分かるようにする
- 配信コメントの場合は配信URLやコメントの保存なども忘れないこと
②感情的になって反撃しない
攻撃的なコメントを受けると、つい言い返したくなるかもしれません。
しかし、相手の挑発に乗ってしまうと、スクリーンショットを悪用されて逆にあなたが「加害者扱い」されるリスクもあります。また相手がさらに過激な発言を重ね、炎上の原因になる可能性も高まります。
上記の証拠を残すという点でも、自分が不利にならないようにするためでもあります。辛いかも知れませんが、むやみに謝らないことも重要です。
▼避けるべき行動
- SNSでの引用ポストや返信で感情的に反論する
- 配信中に相手を名指しして過激な発言をする
- DMやコメントで直接対決をする
▼代わりできる対処法
- 相手をブロック/スルーする
- コメント削除などの機能で可視化されないようにする
- 「ルール違反のため対応しました」と事務的に説明
まずはルールを理由に攻撃してくる相手から離れましょう。目に入ってくると反撃したくなってしまうので自分の視界の中に入れないようにすることも大切です。
③信頼できる人に相談する
心ない発言や迷惑行為に困っているVTuberのみなさんに伝えたいのは、無理してすべてを1人で抱える必要はないということです。
事務所所属の場合はマネージャーや運営スタッフ、個人勢であれば信頼できる友人や配信仲間に相談し、冷静な判断を手伝ってもらいましょう。第三者の視点は、感情的な反応を防ぐ助けにもなります。
相談相手には、VTuberや配信業界のことを知っている、あなたの活動に理解がある方が望ましいですが、重要なのは自分一人で判断せず客観的で冷静な視点を保つ方に相談できるのが一番です。
まだ気持ちが落ち着かない、また迷惑行為をする人が怖いという感情がある場合は、配信を休むことや活動量を調整することも検討してみましょう。
▼相談先の例
- 所属事務所や運営チームの担当者
- 配信仲間や信頼できる友人
- SNSのモデレーターやコミュニティ管理者
▼相談のポイント
- スクショや記録を見せて事実を共有する
- 「どう対応すべきか」よりも「どう守るか」に意識を置く
- 自分だけで判断しない、客観的な意見をもらう
④SNS・配信プラットフォームへの通報や削除依頼を出す
YouTubeやSNSなどのプラットフォームには、迷惑行為や誹謗中傷に対する通報機能があります。
対象コメントやアカウントを運営に報告し、削除やアカウント停止を依頼しましょう。
配信中に荒らしや迷惑行為を繰り返すユーザーが現れた場合は、しっかりと相手の情報を控えておきましょう。
事前に設定したモデレーターに対応を任せると、自分は配信進行に集中できますし、他の視聴者を守ることにもつながります。
▼対応例
- YouTubeの「ユーザーを非表示」や「コメント通報」機能を使う
- X(旧Twitter)の「報告」機能で該当ツイートやアカウントを申請
- Twitchやニコニコ動画など、それぞれのガイドラインに沿った報告
▼ポイント
- 「自分のため」だけでなく「他のリスナーを守る」意識を持つ
- 荒らし対策は事前にモデレーターに役割を依頼しておくとスムーズ
⑤自分のメンタル・精神的ケアを忘れずにする
誹謗中傷や迷惑行為を受けると、心に大きなダメージを与えます。
最初は平気でも悪意が積み重なっていくことで不調を起こしたり、本当は楽しいはずの配信活動が憂鬱になってしまう可能性もあります。
気持ちが沈んでいるときは、無理に配信を続けず休養や趣味の時間を取ることも大切。信頼できる人と会話したり、カウンセリングや相談窓口を利用するのも有効な手段です。
無理して活動を続けることが、必ずしも正解ではありません。自分の「心の安全」を守ることは、活動を長く続けるためにも大切な対応です。
▼メンタルを守るケアの例
- 配信やSNSを一時的に休む
- 配信以外の趣味や休養の時間を取る
- 信頼できる人と話す
- カウンセリングや相談窓口(法テラスなど)を頼る
開示請求とは?:誹謗中傷に対処する最終手段
誹謗中傷などの行為に対してさまざまな対応をしても、その行為が止まらず、時にはエスカレートしてしまうこともあります。殺害予告や身の危険を感じるレベルになって来た場合は、警察や専門機関への相談を検討しましょう。
相手の誹謗中傷などの行為を本気で止めたい、訴えたい場合には、「開示請求」を行う、また場合によっては裁判で決着をつける可能性もあります。
★開示請求(発信者情報開示請求)とは
開示請求(正式名称:発信者情報開示請求)とは、インターネット上で誹謗中傷や権利侵害を受けた場合に、その発信者を特定するための法的手続きです。
投稿者が匿名アカウントであっても、IPアドレスや契約情報をもとに、利用しているプロバイダを通して発信者を割り出すことが可能になります。
しかし、開示請求は「誰でも簡単にできる手段」ではありません。
時間や費用、そして精神的負担も大きい最終手段といえる対応です。
実際に行う場合は、必ず弁護士や専門家と相談しながら進める場合があり、専門家と相談した上で違う対処法を取った方が良い場合もあります。
開示請求をすれば、どんな問題もすぐに解決するというわけではないのです。
開示請求の仕組み
- 弁護士・専門家に相談
- プロバイダヘの請求(コンテンツプロバイダ/アクセスプロバイダ)
- 裁判所での手続き
- 心理的・費用の負担が大きい
- 金銭の回収ができないことも多い
- 二次被害や身バレの可能性
VTuberと開示請求の事例
例:大手事務所(ANYCOLOR)の対応事例
当社所属ライバーに対するプライバシー権侵害行為への対応状況について
例:かなえ先生(実際の開示請求体験談)
もしも誹謗中傷やトラブルに困ったら専門家に相談しよう
開示請求は最終手段と考え、誹謗中傷やトラブルに困っている場合は、専門家に相談しましょう。
とくに著作権問題などの自分の知識だけではどうにもならないことや、脅迫など自分で判断が難しい状況の場合は、専門家の窓口に持って行くべき案件かもしれません。
ぜひ困った時は頼ってみましょう。
法テラス・弁護士ドットコムなど
法律相談の入り口として低予算で利用可能な、法務相談のサービス。
一般的には、法律相談は有償の場合が多いですが、初回相談を無料で受けてくれる方もおられます。
フリーランス・トラブル110番
個人で案件を受けたり、クリエイターとしても依頼を受注して活動する方などにピッタリの、フリーランス、個人事業主向けのトラブル相談窓口です。近年はフリーランス法も施行され、働く環境の改善はもちろん、報酬の未払いや不利な契約条件の交渉なども相談できます。
デザイナー法務小僧
クリエイティブ業界に特化したリーガルサポートを行っている法務相談サービス。知的財産や著作権などクリエイティブな分野に強いことが特徴です。
クリエイティブな活動をされるVTuberはもちろん、V業界に関わるクリエイターさんにもオススメです。
誹謗中傷や権利トラブルから自分を守って、安心してVTuber活動を続けよう!(まとめ)
今回はVTuberが配信活動を続ける上で気をつけたい「誹謗中傷」や「権利トラブル」について、予防対策から初期対応、そして最終手段の開示請求や相談窓口までをご紹介しました。
VTuber活動は配信や企画、ファンとの交流など多くの作業があり、その中で思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。事前の備えや冷静な初期対応は、活動を長く続けるための大切な土台です。
- 誹謗中傷の背景や原因を理解し、コメント管理や個人情報保護などの予防策を整える
- 被害に遭ったら証拠を保存し、反撃せずに信頼できる人や運営へ相談する
- SNSや配信プラットフォームへの通報・削除依頼で被害拡大を防ぐ
- 開示請求は最終手段。費用・時間・心理的負担が大きいため慎重に
- 困ったときは法テラスなどの相談窓口を活用する
今後も、最新の事例や対応方法を追加していきます。
ブックマークやお気に入りに登録して、いざというときにすぐ確認できるようにしておきましょう。